【弁護士解説】株式出資の手引き①【全体概要及び投資契約編】

※本コラムは、2024年10月14日に執筆しました。
本コラムでは、株式での出資を受けることになったベンチャー企業の皆様向けに、
・株式出資によるベンチャーファイナンスの一般的な流れ
・契約書の種類やよく見かける条項の意味やリスク
を解説します。

私は、
・弁護士登録以来、ベンチャー企業の顧客をメイン層として対応
・普段から、少なくとも月に1件以上は、株式出資に関する業務をベンチャー企業側として対応。また、今までで100件近く、投資契約・株主間契約等のレビュー、登記申請業務、相談業務を対応
・創業当初段階からIPO時まではもちろん、IPO以降も継続関与対応
という経験・背景があるところ、実際の普段の業務において、投資契約や株主間契約、種類株式等についてあまり内容を理解できていなかったこと及びベンチャーファイナンスに理解のある弁護士の確認を挟んでいなかったことから、結果的にIPO時まで面倒な思いをした会社様・IPO時までにとんでもない目に遭遇した会社様・IPOは断念になったうえで大変な金銭的損失を抱えることになった経営株主様等を目にしてきました。

私からしますと、営業トークを抜きにしても、ベンチャーファイナンスにおいては、何も考えず、すぐに弁護士(私以外でもいいのでベンチャーファイナンスを日頃から行っている方※1)にご依頼いただければと思いますが、そもそも投資契約や株主間契約、種類株式等についてあまり内容を理解できていなれば弁護士に依頼する必要性が理解できないとも思いましたので、まずは株式出資についての大雑把な理解を得ていただくべく、本コラムを執筆いたしました(そのため、独力での対応を奨励する記事ではありません)。

なお、私は、具体的なファイナンス案件のご相談であれば、まずは30分無料でお話伺うことも可能ですので、本記事を読まずに、ご相談フォームからお問い合わせをされることを一番におすすめします(※無料時間では投資契約等のレビューは原則行いません)。

また、詳しい解説については、皆様の需要に応じ随時、執筆する予定ですが、もし本記事をお読みのうえで更に気になった場合には、私の所属する事務所が協力し、経済産業省が策定した我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項もご参考にされるとよいかと存じます。

※1 私が普段業務をしていて、相手方である出資側・出資を受ける側に弁護士が関与しているケースは多くありますが、見ている限り、その能力値やベンチャーファイナンス・IPOのお作法への理解度はピンキリです。会社法や契約実務に関する理解もそうですが、商業登記やベンチャーファイナンス・IPO実務を理解していないと見当違いのアドバイスをしてしまうこともあり、これは企業法務を専門に取り扱う大手の法律事務所の方にもいます(なお、そのような方々のリサーチ能力・事務処理能力等は疑いないようなく高いです)。

以下から、解説に入りますが、本記事では、
発行会社=株式を発行する会社
経営株主=発行会社の株式を保有する創業者等の株主
投資者=発行会社に出資を行う方で、エンジェルやベンチャーキャピタル等も含みます
という用語法を前提とします。

また、ベンチャーファイナンスとしては、新株予約権や新株予約権付転換社債等も用いられますが、これらについては別記事で解説します。

1.株式出資の概要

(1)融資との違い

株式出資(いわゆる増資)というのは、株主や第三者からお金の払込みを受けて、発行会社が株式の発行をすることです。

融資(金銭消費貸借契約等)の場合は、都度にせよ最終的にせよ、会社が借りたお金を返すという契約ですが、株式出資の場合、契約での合意や通常の株式よりも優先する内容の株式を設定する等しない限りは発行会社は払込を受けたお金をすぐに返還する義務を負いません(会社による自己株式の取得や会社解散時における清算等では結果的に返還されることとなりますが、会社法上の所定の手続を踏む必要があり、株主側が一方的に返還を求めることは簡単にはできません)。

(2)投資契約等の締結及び優先株式設定の意味

ここで、投資者の目線で考えてみましょう。
上記のとおり、株式出資の場合、契約での合意や通常の株式よりも優先する株式を設定する等しない限り発行会社は払込を受けたお金をすぐに返還する義務を負わないため、ともすると融資よりも極めてリスクの高いものとなります。

もちろん、株式を手に入れた投資者は、株主としての権利を有するため、発行会社が会社法上の株主総会決議事項(定款変更、役員報酬、株式発行等)を決めるに当たって、株主総会招集通知等を取得し(情報開示)、賛成反対の意思決定をすることができます。
しかし、株主総会決議事項ではない事項は、株主総会招集通知という情報開示機能が十分に働きません。また、株主総会の決議は多数決原理ですので(過半数や3分の2等)、会社の意思決定をストップするには多数決で勝つだけの株式を保有する必要がありますが、そこまでの株式保有(過半数等)を認めることは発行会社としてもよしとはしないので受け入れてもらえないでしょうし、投資者としてもそこまでの株式保有数相当の金額の出資はハードルが高いでしょう。

このように、投資者側としては、融資よりもリスクの高い取引となってしまうため、
【投資者の要請】
出資前のことについて…
・出資(払込)の前提条件(発行会社の現在のステータス等)を約束してほしい
・出資されたお金の使途を約束してほしい
出資後平常時の運営について…
・会社法上のものとは別に、一定の情報を開示してほしい
・会社法上のものとは別に、発行会社の意思決定にストップをかける権利がほしい
・投資者の指名した者を発行会社の取締役として送り込んで、意思決定に関与する権利がほしい
・経営株主には、発行会社の経営に専念してほしい
・経営株主が株式を譲渡しようとする場合に、その株式を優先的に買えるようにしてほしい
出資後何かあったときについて…
・発行会社や経営株主が補償をすることについて約束してほしい
・発行会社や経営株主に投資者が保有する株式を返して、出資金額の払い戻しをすることについて約束してほしい
・発行会社がM&Aをする場合に、優先的に対価を取得できるようにしてほしい
等といったことを考えます。

そこで、上記の様なことを契約(名称は様々ですが、投資契約、株主間契約等)や株式の内容として定めたい(優先株式として発行を受けたい)、という発想になるというわけです。
この発想自体は、担保もなければ成長途上で信用もあまりない状態のベンチャー企業に出資するという局面からすれば至極当然ではありますが、上記のとおり、投資契約や株主間契約の締結、優先株式の設定は法的には必須ではありません。

これらを踏まえ、改めて、発行会社側・経営株主側の目線で考えると、投資契約や株主間契約の締結・その内容、優先株式の設定・その内容により生じるリスクを把握し、当該リスクと出資を受ける金額が自らに見合うものかを検討し、これらの要否・内容について交渉したうえで、出資の最終決定を行うべきといえます(そのため、実務では、投資契約等も締結せずに、会社法上・登記上必要となる、総数引受契約という、単に株式を発行することのみが内容となった契約を締結するだけにとどめる形態もよくあります)。

(3)投資契約という名称

前記(2)の解説から、投資者側における投資契約を締結する要請は理解できたと思いますが、そもそも、投資契約というのは、発行会社が株式を発行し、投資者がその対価として出資の目的である金銭を発行会社に対して払い込むことで株式を引き受けること及びその条件等を定めた契約の一般的な呼称であって、法令上の定義があるものではありません。
実際には、「投資契約」という名称に限らず、「出資契約」、「株式引受契約」「資本提携契約」その他様々な名称によることがあります。重要なのは、株式を引き受けるにあたって締結する契約について、本記事で解説するような各条項を含め、その内容を発行会社側において理解すること・適切に交渉することといえます。

(4)投資契約と株主間契約・買収分配合意の違い

投資契約とともに、株主間契約、買収分配合意といった契約が投資者から提示されることがあります(ある程度の出資金額となると、ほぼマストです)。これらの使われ方は、様々ではありますが、一般的に多い分類としては、大雑把にいえば、下記のとおりです。
契約 契約当事者 定める内容
投資契約 発行会社、経営株主、新規投資者 ・投資時に関する取決め
・投資後に関する取り決め
・契約違反等、何かあった場合に関する取決め
株主間契約 発行会社、経営株主、主要株主(又は全株主) 投資後及び契約違反等の何かあった場合に関する取決めを、他の株主含めて統一的に定めるもの
買収分配合意 発行会社、経営株主、主要株主(又は全株主) IPO時及びM&A時における取決めを、他の株主含めて統一的に定めるもの
投資契約は、基本的に、発行会社側(経営株主含む)と新規投資者の1対1の契約であり、前記【投資者の要請】に適う条項を定めますが、発行会社側による情報開示、発行会社の意思決定へストップをかける権利、経営株主の経営専念義務等は、他の投資者と内容が共通するといえますし、個々の投資者との間で別々の内容を定めると、発行会社側もその管理や対応のハードルが高いといえます。そのため、発行会社と投資者との取決めのうち共通する部分については、統一的に定める要請が働きます。

また、発行会社の資産が有限であることはもちろんですが、投資者が保有する株式の買取やM&A時の取決めをばらばらに定めてしまうと、究極的には、早いもの勝ちになってしまいますし、権利関係も不安定になってしまいます。IPOやM&Aができる機会があるにもかかわらず、これに株主が協力しないといった事態も投資者としては避けたいです。そのため、株主(投資者)間の取決めを定める要請も働きます。

上記要請から、これらの事項については、発行会社と投資者との1対1の契約ではなく、発行会社及び経営株主と主要な株主(又は全株主)間の1対nの契約として全体ルールを定めた方がよい場合があり、「株主間契約」として締結することになります。
さらに、このような発行会社及び経営株主と株主間の全体ルールである株主間契約から、特に、IPOやM&A時の取決めのみを抜粋して定めた契約を、「買収分配合意」と呼び、株主間契約とは別に締結することも多いです。

大まかな分類は上記ですが、実際の使われ方は様々です。
外部株主がいない発行会社が初めて投資者からの出資を受ける場合には、投資契約のみで締結し、ある程度の出資金額となるVCが投資者として出資する段階で、全株主との間で株主間契約のみを締結することもありますし、ある程度の出資金額となる者のみを株主間契約に参加させ(エンジェル等を除く意味合いです)、買収分配合意については全株主と締結させることもあります(この様な区分が多いです)。
株主が増えるにつれ、それぞれ思惑の異なる関係者が増えるため、それぞれの関係者の思惑や性質を踏まえて、柔軟に対応する必要があります。

2.株式出資の流れ

1では株式出資について説明するとともに、投資契約等締結の意味合いを説明したので、早速、投資契約の中身について説明したいところですが、そもそもこの投資契約等の締結等が、どのような時間軸の中で出てくる話なのかは、操業資金や新規事業のための資金として出資を受けたいという発行会社においては理解しておくべきでしょう(これを理解していないばかりに、予想外に資金調達のスケジュールに滞りが出てしまってピンチ、というケースも見受けられます)。

かなり大まかな出資までの流れ(取締役会非設置)
出資提案

(タームシート提出)※1

投資契約案・株主間契約案・優先株式の内容提示
↓交渉
株主総会招集通知発送
↓(最低でも中7日必要
株主総会開催(株式発行等の決議)

・投資契約等の締結
・株式の総数引受契約の締結

払込期日までにおける出資金の払込(株式の発行)

登記(払込期日から2週間以内
※1 タームシートとは、投資契約等や優先株式の内容の簡略版みたいもので、重要部分の交渉や確認のために用います。必須ではなく、ない場合もあります。

上記は、かなり簡略化した状態ですが、変数として、各発行会社の機関設計(取締役会設置会社か否か等)や当該ラウンド(出資のタイミングのこと)における出資者の構成等があり、それ次第ではより複雑混迷となります。

着目していただきたいポイントとして、どうあっても、発行に当たっては、株主総会決議や登記という手続が必要となるところです。これらは、バックデートすることでの対応はできません。
そのような制約がある中で、投資契約等の条件について、交渉を進める必要がありますので、金銭的に差し迫った状況における出資とならないようにすることは、念頭に置くべきです。

3.投資契約の概要

前記の解説のとおり、投資者側における投資契約を締結する要請は理解できたと思いますので、本項からは、投資契約において、一般的によくみられる条項のうち、特に気を付けるべき条項について、その内容を解説していきます。なお、下記の条項例はあくまで一例であり、規定の仕方や条項名の付され方は様々です。

(1)前文(頭書)・契約当事者

【投資者名】(以下「投資者」という)、【発行会社名】(以下「発行会社」という)及び【経営株主名】(以下「経営株主」という)は、投資者による発行会社への投資に関し、以下のとおり投資契約(以下「本契約」という)を締結する。

前文(頭書)に限った話ではありませんが、上記のように、投資契約冒頭において、契約当事者として経営株主が入れられることが多いです。この「経営株主」という文言は、法律で定義されたものではありませんが、発行会社であるベンチャー企業の多くは、代表取締役が発行会社の株式の多くを保有しているため、当該代表取締役が記載されることが多いです。これは、(この後の条項の定め方次第ですが)投資者による責任追及が、発行会社だけでなく、代表取締役である経営株主個人にも及ぶかもしれないことを意味します。

経営株主の定めも様々で、何人かで創業された場合には、共同創業者全員が記載されることもありますし、株式をあまり保有していない代表取締役が経営株主として記載されることもあります。

そのため、投資契約や株主間契約等を確認する際には、発行会社としての観点からの確認もそうですが、経営株主においては、自らの義務・責任にもなるという観点からも確認するべきです。

(2)発行要項(株式の発行及び割当て)

発行会社は、以下の要項(以下「本要項」という)により株式を発行するものとし、投資者は、このうち普通株式●株を引き受ける(以下「本投資」といい、投資者に割り当てられる株式を以下「本株式」という)。
(1)株式の種類及び数 普通株式●株
(2)払込金額 1株につき●円
(3)払込金額の総額 ●円
(4)増加する資本金の額 ●円
(5)増加する資本準備金の額 ●円
(6)発行方法 第三者割当の方法により割り当てる
(7)払込期日 ●年●月●日
(8)払込取扱場所 ●●銀行/●●支店/預金種目:●●預金/口座番号:●●/口座:●●

株式出資の内容を定めるものです。上記では、普通株式としておりますが、これが優先株式等による場合は、投資契約の別紙として、当該優先株式等の内容を定めることとなります。
上記のうち、払込期日は特に重要です。払込期日経過後に払込がされても有効な株式発行とできず登記もできないため、手続のやり直しが必要となります。特に、外国ファンド等による場合、送金手続が国内間のものよりも煩雑であり、払込期日を過ぎてしまってやり直しというケースもありますので、投資者側のスケジュール把握も必要となります。

(3)表明保証

1.発行会社及び経営株主は、投資者に対し、本契約締結日及び払込期日において、別紙●に記載される事実が真実かつ正確であることを表明し、保証する。
2.経営株主は、投資者に対し、本契約締結日及び払込期日において、別紙●に記載される事実が真実かつ正確であることを表明し、保証する。
※1 項の別紙の内容が、発行会社に関するもの、2項の別紙の内容が経営株主に関するものとします

一定の事項について、その内容が真実であることを保証する条項を表明保証条項といいます。
投資契約における表明保証は、上記のように、発行会社側の事項と経営株主側の事項それぞれに表明保証させることが一般的です。
発行会社側の事項としては、例えば、下記の様な事項があります。
・発行済株式数等の登記上の表示が、発行会社の実態と一致していること
・未開示の新株予約権等、潜在的な株式を引き受ける権利が存在しないこと
・発行会社の貸借対照表や損益計算書等の計算書類の数値が適正なもので、計算書類に記載されていない債権債務が存在しないこと
・発行会社に対する訴訟等が係属していないこと
・発行会社の資産に対する差押え等がなされていないこと
・発行会社が事業に必要な重要な資産を所有し又は正当な権限により使用することが可能であること
・発行会社が事業に必要な知的財産権又は知的財産権を使用する権利を保有しており、第三者の知的財産権を侵害していないこと

上記の様な事項が別紙として、何頁にもわたって記載されていることがほとんどであるところ、この箇所を読み飛ばされる発行会社様は多いです。しかし、この表明保証条項に反する事項があれば、当然投資契約上の債務不履行を構成しますし、買取義務等の制裁条項のきっかけとなります(投資者側が契約時点において当該不一致の事項を知っていれば、やろうと思えばですが、後々、発行会社株式が不要になったとき等に、それを理由として買取や補償を迫る余地があるわけです)。

現在登記中の事項がある場合やそもそも登記が漏れている事項がある場合、現在訴訟継続中の事項がある場合等、表明保証記載の事項と反する事項があれば、「●●を除き」等として、除外しなければ、契約締結時点から債務不履行を起こしている契約となってしまいます(何を除外としなければいけないかは、そもそも、商業登記法、その他法律において、本来どのようにしなければならないのかが分からないとできません。その点からしても、企業法務を理解している弁護士に依頼すべきです)。

また、知的財産権の侵害等は、発行会社側で気を付けていても認識が難しい部分もあります。そのため、「知る限り」「知り得る限り」「重大な」等を追記することで、表明保証の対象となる条項を限定する必要があります。

(4)資金使途

発行会社は、本株式の発行に伴い取得した資金を、発行会社の事業を拡大発展させるために必要と認められる人材採用、設備投資、広告宣伝その他の事業活動に使用するものとする。

株式出資により払込を受けた資金について、発行会社の使途を限定する条項です。当然、定められた使途と異なる使途であれば、投資契約違反となります。
上記の条項例は抽象的な定めになっていますが、投資契約次第では、
発行会社は、本株式の発行に伴い取得した資金を、以下の各号に掲げる目的で使用するものとする。
(1)●●サービスの企画、開発及び運用並びこれに関連するアプリケーションの企画、開発及び運用
(2)投資者に提出済の事業計画記載の経費の支出その他事業計画に従った会社運営
といった形で、具体的に定められることもあります。

発行会社としては、投資契約違反とならないよう、広範なものとなる文言に修正交渉することや、予定されている事項についてあらかじめ追記修正交渉をする等の対応が必要です。

(5)事前承認(拒否権)・事前通知等

(事前承認)
発行会社は、以下の各号に掲げる事項について決定しようとする場合には、決定しようとする●日前までに当該事項の概要を投資者に通知のうえ、投資者の事前の書面等による承諾を得なければならない。
(1)定款の変更
(2)株式等の発行
(3)資本金又は資本準備金の額の減少
(4)自己株式、自己新株予約権又は自己新株予約権付社債の取得
(略)
(事前通知)
発行会社は、以下の各号に掲げる事項について決定しようとする場合には、決定しようとする●日前までに当該事項の概要を投資者に通知しなければならない。
(1)取締役会規程その他の重要な内部規程の制定、変更又は廃止
(2)執行役員その他の重要な職位を有する使用人の選任、解任、解職、解雇又は異動
(3)役員賞与の支給
(略)

上記(事前承認)は、何かを決定しようとする場合や何かをしようとする場合、会社法上の手続とは別に、投資者の事前承認や承諾が必要となる規定であり、これは頻出です。
また、上記(事前通知)のように、何かを決定しようとする場合や何かをしようとする場合、会社法上の手続とは別に、投資者への事前通知が必要となる規定も、(事前承認)とあわせて規定されることが多いです(さらに、バリエーションとして、事前協議や事後通知等もあります)

事前承認事項となる事項は、承認が得られなければ、それを行うことが債務不履行となりますので、これは株式保有数にかかわらない、投資者の拒否権ともいえます。そのため、事前承認事項として掲げられる事項を極力減らすべきです。一方で、事前承認事項を減らすにしても、残る事前承認事項も極力明確な内容にする必要があります(行おうとしている事項が事前承認事項に当たるのかよく分からずスケジュールが遅くなってしまう発行会社様や知らないうちに違反している発行会社様が多いです)。
また、例えば、上記の様に、「株式等の発行」が事前承認事項となることは多いですが、将来的に、発行会社様の役職員向けにストックオプションを付与されたいと思うこともあるでしょうから、下記の様な、一定量の役職員向けストックオプションは事前承認の対象外としてもらうことが考えられます。このように、具体的な事前承認事項毎に、将来起きる事象を予測して、限定を加える方法等も検討すべきです。
(2)株式等の発行(ただし、発行会社の役職員に対して、インセンティブの付与のために、普通株式を目的とする新株予約権(以下「本ストックオプション」という)を発行する場合で、当該発行直後において本ストックオプションの目的たる普通株式の合計数が、発行会社の発行済株式総数の10%を超えない場合を除く)

事前承認事項も事前通知事項も、投資契約締結後に対応しなければ事項であるため、自らが対応できるかという観点からの確認・交渉が必須ではあるところ、これは投資契約・株主間契約等の交渉において共通しますが、投資者であるVC等の担当者が社内で納得を得られる理由を伝えることが肝心です。そのような点からも、ベンチャーファイナンスに理解のある弁護士に依頼すべきといえます。

なお、このような事前承認・通知の漏れも、当然投資契約上の債務不履行を構成しますし、買取義務等の制裁条項のきっかけとなる余地があります(投資者側としてやろうと思えばですが、発行会社の経営がうまくいっているときには言わないでおいて、後々、発行会社の経営やIPO、M&Aの目途が立たなくなったとき等に、これを理由として買取や補償を迫ることもできるわけです)。

(6)株式買取請求(プットオプション)

1.投資者は、以下の各号に掲げる事由のいずれかが発生した場合、投資者が保有する本株式の全部又は一部を、発行会社及び経営株主が連帯して買取ることを請求できるものとし、発行会社及び経営株主はかかる請求を受けた日より●日以内に本株式を投資者の指定する方法で全て買取らなければならない。
(1)本契約における発行会社又は経営株主の表明及び保証が重要な点において真実又は正確でなかった場合
(2)発行会社又は経営株主のいずれかが本契約のいずれかの規定に違反をした場合
(略)

先ほどから何度か触れていますが、投資契約において特に懸念となる規定です。
この規定は、一定の条件に該当した場合、投資者が保有することになった株式を買い取らなければならないとするもので、「株式買取請求」「プットオプション」と呼ばれたりします。

この買取義務を負う当事者ですが、ベンチャーファイナンス実務解説本においては、(それがスタンダードとして流通すること等を懸念して)発行会社のみが負う条項例が記載されることもありますが、実務では、上記の様に、発行会社と経営株主両方が連帯して買取義務を負うとするものが提示されることが多くあります。
これは、発行会社による発行会社株式の取得が、会社法上の自己株式取得として、財源規制が適用されること等が理由です。
発行会社と経営株主の義務とした場合であっても、株式買取請求がなされるときは、発行会社の財政状況が芳しくないことも多いでしょうから、経営株主としては、自分一人が投資者の株式の買取義務を負うかもしれないという認識をもつべきです。
実際に、(私が関与せずに行われた出資案件について)数億円規模の買取請求がなされた段階になって相談が持ち込まれたケースもありましたので、買取義務者に経営株主が含まれるかどうかは要注意事項となります。
そのため、経営株主の立場としては、可能な限り、買取義務者を発行会社に限定する修正交渉を行うべきといえます。

買取義務者以外の事項として、そもそもどのような条件であると買取義務が発生するのかという点や株式買取時の買取価格をどう定めるのかも、重要な問題になってきます。

買取義務の発生条件について、上記の条項例では「本契約のいずれかの規定に違反をした場合」としていますが、これでは前記の事前通知義務等の軽微な違反一つでも買取義務が発生してしまうことになりますので、「本契約のいずれかの規定に重大な違反をし、当該違反の治癒が不可能な場合又は違反当事者が当該違反の治癒を求める投資者からの通知を受領後●日以内にかかる違反を治癒しない場合」等と限定をかける必要があります。

また、実際に買取請求が発動した場合の株式の買取価格については、
2.前項に基づく買取における1株当たりの譲渡金額は、次の価格のうち最も高い金額とする。
(1)投資者が本株式を取得した際の1株当たりの払込金額
(2)発行会社の直近の貸借対照表上の簿価純資産に基づく発行会社の1株当たり純資産価額
(3)投資者、発行会社及び経営株主が協議の上選任した第三者の鑑定による発行会社株式の1株当たりの公正な時価
(4)本条に定める買取請求以前において、発行会社の新株発行又は発行会社の株式譲渡の取引事例が存在する場合には、その直近の1株当たりの新株払込金額又はかかる取引事例における1株当たりの譲渡価額
(5)財産評価基本通達に定められた類似業種比準価額方式に従い計算された金額
といった定めがよくみられます。
しかし、例えば、(4)は直近の取引事例をベースにするものですが、発行会社のバリエーションが上がるにつれて、どんどん買取価格はあがっていくので、ざっくりと「出資時のお金を返せばいいんでしょ」と思っていると、予想外の事態となります。

上記の様に、細かい文言の定め方次第で、意味内容が大きく異なることもありますので、安易に自己判断をせずに、弁護士に確認を求めるべきです。

4.まとめ

上記のように、投資契約やその条項一つをとっても、留意すべき点は細かいです。また、皆様が、普段、事業を行うにあたり、その後の展開を知らなければ何に留意しなければが分からないように、そもそもIPOまで実際に経験された方でない限りは、投資契約で留意すべき点は分からないことがほとんどです(付け加えれば、IPOまで実際に経験された方であっても、経営のすべてに一人で細かく対応していない限りは分からないと思われます)。

さらに、上記で触れた条項は、あくまで一部の抜粋であって、上記以外にも懸念となる条項は多くあります(たまに、部分的に契約書を確認してほしいという方がいますが、全体を見てみないことには、どこに地雷となる条項があるのかはわかりません)。

実際に株式の買取や損害賠償の請求を受けてトラブルとなっている事例や、事前承認等で日々の会社運営に差支えが生じてしまっている事例等も多く見かけますので、出資金額にかかわらず、ファイナンスのお話があった場合には、是非下記の相談フォームよりお問い合わせください(ファイナンス案件のご相談であれば、まずは30分無料でお話伺います)

なお、私は、商業登記の対応も普段から行っていますので、私に依頼される場合は、契約書等のレビュー対応に限らず、会社法上の必要書類作成、登記申請まで、丸ごと対応可能ですし、ファイナンスについては、顧問契約を別の法律事務所様と締結されている場合であっても、スポット的にご依頼いただくことが可能です。

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