【弁護士解説】株式出資の手引き②【株主間契約及び買収分配合意編】

※本コラムは、2024年11月14日に執筆しました。
本コラムでは、株式での出資を受けることになったベンチャー企業の皆様向けに、
・株主間契約や買収分配合意にてよく見かける条項の意味やリスク
を解説します。
私は、
・弁護士登録以来、ベンチャー企業の顧客をメイン層として対応
・普段から、少なくとも月に1件以上は、株式出資に関する業務をベンチャー企業側として対応。また、今までで100件近く、投資契約・株主間契約等のレビュー、登記申請業務、相談業務を対応
・創業当初段階からIPO時まではもちろん、IPO以降も継続関与対応
という経験・背景があるところ、実際の普段の業務において、投資契約や株主間契約、種類株式等についてあまり内容を理解できていなかったこと及びベンチャーファイナンスに理解のある弁護士の確認を挟んでいなかったことから、結果的にIPO時まで面倒な思いをした会社様・IPO時までにとんでもない目に遭遇した会社様・IPOは断念になったうえで大変な金銭的損失を抱えることになった経営株主様等を目にしてきました。

私からしますと、営業トークを抜きにしても、ベンチャーファイナンスにおいては、何も考えず、すぐに弁護士(私以外でもいいのでベンチャーファイナンスを日頃から行っている方※1)にご依頼いただければと思いますが、そもそも投資契約や株主間契約、種類株式等についてあまり内容を理解できていなければ弁護士に依頼する必要性が理解できないとも思いましたので、本コラムを執筆いたしました(そのため、独力での対応を奨励するコラムではありません)。

なお、私は、具体的なファイナンス案件のご相談であれば、まずは30分無料でお話を伺うことも可能ですので、本記事を読まずに、ご相談フォームからお問い合わせをされることを一番におすすめします(※無料時間では投資契約等のレビューは原則行いません)。

また、本記事は、「【弁護士解説】株式出資の手引き①【全体概要及び投資契約編】」に続く記事となっておりますので、まずは当該記事をご覧いただければと思います。

※1 私が普段業務をしていて、相手方である出資側・出資を受ける側に弁護士が関与しているケースは多くありますが、見ている限り、その能力値やベンチャーファイナンス・IPOのお作法への理解度はピンキリです。会社法や契約実務に関する理解もそうですが、商業登記やベンチャーファイナンス・IPO実務を理解していないと見当違いのアドバイスをしてしまうこともあり、これは企業法務を専門に取り扱う大手の法律事務所の方にもいます(なお、そのような方々のリサーチ能力・事務処理能力等は疑いないようなく高いです)。

以下から、解説に入りますが、本記事では、
発行会社=株式を発行する会社
経営株主=発行会社の株式を保有する創業者等の株主
投資者=発行会社に出資を行う方で、エンジェルやベンチャーキャピタル(VC)等も含みます
という用語法を前提とします。

また、ベンチャーファイナンスとしては、新株予約権や新株予約権付転換社債等も用いられますが、これらについては別記事で解説します。

1.株主間契約等の締結の意味(前回記事のおさらい)

まずは、前回記事のおさらいです。
株式出資の場合、契約での合意や通常の株式よりも優先する株式を設定する等しない限り発行会社は払込を受けたお金をすぐに返還する義務を負わないため、ともすると融資よりも極めてリスクの高いものとなります。

そのため、投資者としては、
会社法で株主に認められた以上の情報開示の必要
会社の意思決定をストップする権利の必要
上記のような取決めに違反した場合における補償の必要
M&AやIPO時における取決めの必要

が生じ、投資契約や株主間契約等を締結したいと思うわけです。

前回記事ではその手段として投資契約を紹介しましたが、投資契約とともに、株主間契約、買収分配合意といった契約が投資者から提示されることがあります(ある程度の出資金額となると、ほぼマストです)。これらの使われ方は、様々ではありますが、一般的に多い分類としては、大雑把にいえば、下記のとおりです。
契約 契約当事者 定める内容
投資契約 発行会社、経営株主、新規投資者 ・投資時に関する取決め
・投資後に関する取り決め
・契約違反等、何かあった場合に関する取決め
株主間契約 発行会社、経営株主、主要株主(又は全株主) 投資後及び契約違反等の何かあった場合に関する取決めを、他の株主含めて統一的に定めるもの
買収分配合意 発行会社、経営株主、主要株主(又は全株主) IPO時及びM&A時における取決めを、他の株主含めて統一的に定めるもの
上記の様に、投資契約は、基本的に、発行会社側(経営株主含む)と新規投資者の1対1の契約ですが、発行会社と投資者との取決めのうち他の投資者と共通する部分については、統一的に定める要請が働きます。

また、投資者が保有する株式の買取やM&A時の取決めをばらばらに定めてしまうと、究極的には、早いもの勝ちになってしまいますし、権利関係も不安定になってしまいます。IPOやM&Aができる機会があるにもかかわらず、これに株主が協力しないといった事態も投資者としては避けたいです。そのため、株主(投資者)間の取決めを定める要請も働きます。

上記要請から、これらの事項については、発行会社と投資者との1対1の契約ではなく、発行会社及び経営株主と主要な株主(又は全株主)間の1対nの契約として全体ルールを定めた方がよい場合があり、「株主間契約」として締結することになります。
さらに、このような発行会社及び経営株主と株主間の全体ルールである株主間契約から、特に、IPOやM&A時の取決めのみを抜粋して定めた契約を、「買収分配合意」と呼び、株主間契約とは別に締結することも多いです。

本記事では、買収分配合意の一般的な位置づけを踏まえて、株主間契約の条項に関するものとしてまとめて解説しますが、実際には別の契約として締結することもありますので、その点はご留意ください。

2.株主間契約の概要

前記解説のとおり、株主間契約や買収分配合意を締結する要請は理解できたと思いますので、本項からは、これらの契約において、一般的によくみられる条項のうち、特に気を付けるべき条項について、その内容を解説していきます。なお、下記の条項例はあくまで一例であり、規定の仕方や条項名の付され方は様々です。

(1)前文(頭書)・契約当事者

別紙記載の投資者(以下「投資者」という)、【発行会社名】(以下「発行会社」という)及び【経営株主名】(以下「経営株主」という)は、以下のとおり株主間契約(以下「本契約」という)を締結する。

株主間契約や買収分配合意の契約当事者を定める部分です。

投資契約と異なって、既存の株主も入れた形で締結することとなり、新規株主が現れる場合には、継ぎ足しのたれのように、新規株主を株主間契約に参加させることとなりますが、出資額次第では、新規株主が新たな株主間契約を提示してきて、当該株主間契約を全員で締結し直しを迫られるということもあります。
このような場合、交渉には既存株主の協力等も必要となりますので、進め方には工夫が必要です。

前回記事でも触れたように、投資者として(そうでなくても契約当事者として)、全株主を入れるかも検討事項です。創業時にほんのわずか出資した知り合いやエンジェル等にまで、この後の各権利を保障すると、思いもよらぬ支障が生じますし、契約内容変更の際には全員の同意が必要になります。
そのため、契約当事者として少数株主を入れないことや保有する議決権数により限定を設けること等も検討事項といえます。

(2)取締役指名権・オブザーバー指名権:人を送り込ませてくれ

(取締役指名権)
1.多数投資者はそれぞれ発行会社の取締役を1名指名する権利を有する。多数投資者がかかる権利を行使する場合、発行会社及び経営株主は、多数投資者が指名した者が取締役として速やかに選任されるために必要なあらゆる措置をとる。
(オブザーバー指名権)
2.投資者はそれぞれ、発行会社の取締役会(取締役会設置会社でない場合は、全ての取締役を構成員とする会議を意味する)に関するオブザーバーを1名指名する権利を有する。

1項の(取締役指名権)は、その名のとおり、投資者が指名した者を発行会社の取締役として送り込むことのできる規定です。
取締役会設置会社においては、取締役会で報告される事項や決議される事項があります。取締役会非設置会社においても、取締役の決定による事項もあります。これらの事項について、情報を収集するとともに、決定や決議に参加することができる余地を生むものです。
ただ、想像がつくと思いますが、どんな株主にでもこの権利を与えると、出資全員が取締役を送り込もうとして混迷を極めてしまいます。そのため、ラウンド(出資機会)ごとに議決権数が多くなる投資者に付与したり、そもそも議決権数によりこの権利を行使できる投資者を限定する等を検討すべきです(上記条項例では、「多数投資者」としています。これは「多数投資者」の定義を別の条項で、例えば、「過半数以上の議決権を保有する投資者」等と定義付けることで対応します)。

2項の(オブザーバー指名権)は、取締役会設置会社であれば取締役会、取締役会非設置会社であれば取締役による経営会議等に、投資者の指名したオブザーバーを送り込むことのできる規定です。取締役指名権と異なって、議決権等はないため、情報収集や助言等が主な機能といえます。
このように、取締役指名権よりは、会社への影響は低いです。しかし、すべての株主にこの権利を与えたときのことを想像してほしいのですが、取締役会や経営会議の参加者が大人数になり、好き放題言われてしまいます。有益な意見もあるでしょうがそうでない意見もあり得るところ、発行会社としても、出資者を無下にできず困ることになるでしょう。
そのため、取締役指名権ほどのハードルではないにせよ、権利の付与対象となる投資者には限定をかけることを検討すべきです。実際に、あらゆる投資者にオブザーバー権を付与した結果、取締役会の度にオブザーバー対応に振り回されているクライアント様もおりました。そのため、出資金額にもよりますが、持株比率や議決権比率において5%程度の投資者に限定される等が一般的な対応と考えられます。

(3)事前承認(拒否権)・事前通知等:何かやるなら事前に許可を求めてくれ

(事前承認)
発行会社は、以下の各号に掲げる事項について決定しようとする場合には、決定しようとする●日前までに当該事項の概要を各投資者に通知のうえ、各投資者の事前の書面等による承諾を得なければならない。
(1)定款の変更
(2)株式等の発行
(3)資本金又は資本準備金の額の減少
(4)自己株式、自己新株予約権又は自己新株予約権付社債の取得
(5)貸付、借入、債務保証又は担保提供
(略)
(事前通知)
発行会社は、以下の各号に掲げる事項について決定しようとする場合には、決定しようとする●日前までに当該事項の概要を各投資者に通知しなければならない。
(1)取締役会規程その他の重要な内部規程の制定、変更又は廃止
(2)執行役員その他の重要な職位を有する使用人の選任、解任、解職、解雇又は異動
(3)役員賞与の支給
(略)

前回記事でも説明しましたとおり、上記(事前承認)は、承認が得られなければ、それを行うことが債務不履行となりますので、投資者の拒否権ともいえます。前回記事と共通する点としては、
事前承認事項として掲げられる事項を極力減らすこと
事前承認事項も極力明確な内容にすること
具体的な事前承認事項毎に、将来起きる事象を予測して、限定を加える
ことです(これをやらないと、組織として発展途上の発行会社においては、何らかの事前承認違反が発生するおそれがあります)。

株主間契約では、これに加え、先ほどの取締役指名権等での解説同様に、誰の事前承認を得なければならないかという範囲の限定を検討すべきです。上記条項例の様に、単に「投資者」としてしまうと、全投資者の承認を得なければ事前承認事項について行うことができなくなってしまいますが、投資者ごとに発行会社に期待する方向性は違いますので、何もできなくなるおそれがあります。そのため、議決権保有数等で、事前承認を行う者の範囲を限定すべきです。
また、例えば、上記条項例(5)のように、単に「貸付、借入、債務保証又は担保提供」としてしまうと、低額のものであっても都度事前承認が必要となり、経営の迅速性が失われてしまいます。そのため、一定以上の金額のものに限定する等の対応もすべきです。

(事前通知)については、基本的に、単なる通知でよいため、株主間契約の全当事者とすることが多いものの、やはり、あらゆる事項・多岐にわたる事項を通知しなければならないとすると発行会社は通知漏れも起きてしまいますので、(事前承認)同様の検討を行い、会社法による開示書類との関係等から交渉を行うべきといえます(私の経験上、重複している場合が多くあります)。

(4)経営株主の専念義務等:勝手にやめたり、競業はしないでくれ

(辞任、再選拒否の禁止)
1.経営株主は、多数投資者の事前の承諾なく発行会社の代表取締役を辞任せず、また、再任されることを拒否しないものとする。ただし、疾病、死亡又は事故等のやむを得ない事由により職務継続が困難である場合はこの限りではない。
(競業避止義務)
2.経営株主は、発行会社の株主、取締役、監査役、従業員又はアドバイザーとしての地位にある間及び発行会社の株主、取締役、監査役、従業員又はアドバイザーのいずれでもなくなった日から2年聞が経過するまでは、発行会社の事業と競合する事業を直接又は間接に行つてはならない。

ベンチャー企業では、大企業等と異なって、その経営は経営株主に強く依拠することがほとんどです(「株式会社●●といえば、オーナーであり代表取締役である▲▲さん!」のような感じです)。VC等の投資者からしても、そのような経営株主が、出資後に、いきなり辞められたら困るでしょうし(これが上記(辞任、再選拒否の禁止)につながります)、別法人や個人として、異なる事業をやり始めたら困ります(これが上記(競業避止義務)につながります)。そのため、上記条項は納得がいきやすいのではないでしょうか。
そうはいっても、手放しに何でも受け入れてよいわけではなく、注意が必要です。

まず、上記(辞任、再選拒否の禁止)については、上記条項例のように、しっかりと、例外となる場合の定めがあるか・定めがあったとしても適切かどうかを確認すべきです。
ただし書が「ただし、死亡又は事故により職務継続が困難である場合はこの限りではない。」のような形になっていたがために、病気によって辞任せざるを得ない場合に買取請求を発動されたというような事例があります(この場合、「疾病」や「その他やむを得ない事由」等の文言について追加交渉をしていれば防げました)

また、上記(競業避止義務)については、さらっと読み流される方が多いですが、株主間契約締結時点で既に何か事業を行われている場合に継続してしまうと、競業避止義務違反になるおそれがあります。「発行会社の事業と競合する事業」というのは、不明確であり、裁判で争いにもなる条項ですので、安易に該当しないと判断しない方がよいですし、事業を継続されたい場合には、既存で行っている事業については除外してもらう交渉をすべきです(除外交渉が認められない場合、事業継続をとってファイナンスを諦めるか、事業を諦めてファイナンスをとるかの選択に迫られます)。

(5)上場努力義務(エグジット条項):上場とかできるよう頑張ってくれ

発行会社及び経営株主は、●年●月●日までに、発行会社の株式上場又は買収等を実施すべく、最大限の努力を尽くすものとする。

投資者のうちファンドは、ファンドの出資者からのお金をもって投資を行いますが、ファンドには存続期間があるため、その期間内に成果を出す必要があります。そのため、特にファンドからすると、発行会社であるベンチャー企業に出資した場合、一定期間内に発行会社にも成果をだしてもらう必要があります。
そのため、発行会社のIPO、又は、M&Aというゴールを、期限とともに設定するのが上記条項例となります。
ただし、ゴールといっても、IPOやM&Aは発行会社の努力だけで簡単にできるものではないため、上記条項例の「努力を尽くす」や「努める」等という形で、努力義務になっているかは確認が必須となります(ごくまれですが、努力義務になっていないものが発行会社側に提示されていたことがあり、修正交渉をしたことがあります)。
また、上記条項例はかなりシンプルな形としていますが、VC提示の雛形では「上場」や「買収等」について限定しているものもあります。努力義務といえども、契約違反(債務不履行)自体は観念できますので、確認には注意を要します。

(6)優先引受権:株式とか発行するなら、その分、おれにも発行してくれ

1.投資者は、発行会社が新株等の発行、処分又は付与(以下「新株等の発行等」という)をする場合には、新株等の発行等をする直前の持株比率を維持することのできる最低限の比率の引受権(以下「本新株等引受権」という)を有する。
2.発行会社は、新株等の発行等をする場合、事前に投資者に対して、かかる新株等の発行等がされる新株等の数、払込金額又はその算定方法、新株等が新株予約権又は新株予約権付社債である場合にはその新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法及びその他重要な事項を示して、本新株等引受権を行使するか否かの確認を求める書面等を送付しなければならない。
3.投資者は、本新株等引受権を行使する場合、前項の書面等の受領後14日以内(以下「引受通知期間」という)に、発行会社に対し本新株等引受権を行使する旨の書面等による通知するものとし、当該投資者がかかる期間内に本新株等引受権を行使する旨の通知を行わない場合、当該投資者は当該通知に係る新株等の発行等に関し本新株等引受権を失う。

投資者による出資後もベンチャー企業では増資が続くことが多いです。増資により株式発行がされれば、投資者の出資時点における発行会社株式の持株比率(≒議決権比率)が下がります。持株比率が下がれば、株主総会決議における影響力も低下しますし、前記のような事前承認事項等の権利の対象者から外れることになります。
これを回避しようにも、株式発行の対象を誰にするかは、基本的に発行会社側が選択できますので、投資者側から自分を入れろと法的に主張することができません。
そこで、株主間契約では、優先引受権として、増資のたびに、既存株主に対して、従前の持株比率を維持するために必要となる出資を可能とする権利を付与することが一般的です。
内容としては上記条項例のように、①新株等の発行等をする場合に既存株主へ発行株式数や出資時に必要となる金額等を通知する、②引受を必要とする既存株主が発行会社に通知する、③通知をした既存株主は、当該新株等の発行等のタイミングで持株比率維持に必要となる出資を行い株式の割当を受ける、といったものが基本です。また、上記条項例で「新株等の発行等」としているように、株式だけではなく、新株予約権等といった株式以外のものが発行される場合や、株式の発行だけではなく発行会社が保有する自己株式の処分等も含まれる形をとることが多いです。

優先引受権の付与対象者は、上記条項例のように持株比率関係なく、株主間契約に参加するすべての投資者とすることが多いですが、優先引受権の定めに従った手続を行うとその分手間と時間がかかりますので、発行会社の株主構成上、あまりに小口な株主が多いのであれば、付与対象者を限定することが考えられます。
また、優先引受権の対象外として、事前に、一定数量の発行会社の役職員向ストックオプションを除外することも検討すべきです(いわゆるオプションプールと呼ばれるものです)。

上記条項例は、極力簡素化していますが、実際に契約書として提示されるものは、定義が契約書の別箇所でされている、「比率」についての条項も設定される等、複雑であるため、確認には注意を要するといえます。

(7)譲渡制限:勝手に株式を譲渡しないでくれ

経営株主は、第●条(先買権)及び第●条(共同売却権)の定めに基づいて譲渡する場合を除き、自らが保有する発行会社の株式等につき第三者(発行会社の他の株主を含む)に対する譲渡、承継、担保提供その他の処分を行ってはならない。

経営株主が発行会社の株式を保有することは、経営株主が発行会社の経営に関与するインセンティブがあるという意味で、経営株主のみならず、投資者からしても重要であり、経営株主が発行会社の株式を簡単に手放すという事態は防ぎたいと考えます。
この点、発行会社が上場会社ではない場合、株式は、譲渡制限株式とされることが多く(自社の定款で「当会社の株式を譲渡によって取得するには、当会社の承認を受けなければならない。」等とされていれば該当します)、譲渡制限株式を譲渡するには、定款所定の承認機関による承認が必要となります。しかし、会社法上及び定款上でこのような定めがされていたとしても、譲渡が承認されない場合、発行会社又は発行会社が指定する者による買取が必要となりますので、経営株主による発行会社株式の手放しという事態の回避としては不十分です。

そこで、上記条項例のように株主間契約においても、経営株主の発行会社株式の譲渡を制限することが一般的です。
そして、この譲渡制限規定に派生する形で、経営株主が譲渡しようとする株式を買い取る権利として次の先買権が、経営株主による第三者への譲渡に相乗りできる権利として共同売却権が、同時に定められることが多いです(そのため、上記条項例のように、先買権、共同売却権の手続に従った場合を除く、等として規定されます)。

(8)先買権:その譲渡予定の株式をおれに売ってくれ

1.経営株主が、その保有する発行会社の株式の全部又は一部を、第三者(発行会社の他の株主を含む)に対して譲渡することを希望する場合、経営株主は事前に投資者及び発行会社に対し、①譲渡を予定している株式(以下「譲渡予定株式」という)の種類及び数、②譲渡を予定している相手方(以下「株式譲受予定者」という)の氏名又は名称及び住所及び③1株あたりの譲渡予定価格その他の条件を書面により通知(以下「譲渡予定通知」という)しなければならない。
2.投資者は、譲渡予定株式の全部又は一部を、譲渡予定通知の記載と同一の価格及び条件で買い取ることを請求することができ、かかる買取を希望する場合、譲渡予定通知の受領後30日以内に、経営株主に対しその旨書面にて通知する。
3.投資者が前項に基づく買取の通知を行った場合には、経営株主は当該投資者に対し、対象となる譲渡予定株式を売り渡す義務を負うものとする。
(※上記条項例は説明の便宜上、かなり簡潔にしています)

前記(7)譲渡制限のとおり、この先買権は、経営株主が発行会社株式を譲渡しようとする場合に、第三者よりも先に、当該発行会社株式を購入することができる権利です。
上記条項例では、すべての投資者が先買権の権利者になっていますが、これを優先投資者(一定の持株比率以上の株主)に限定することもあり、株主構成も踏まえて検討すべきです。発行会社も先買権を持つ形になっていますが、なっていない場合もあります。
発行会社としては、ストックオプション(新株予約権)発行の代わりとして、役職員や社外協力者に対する譲渡をすること等もあり得ますので、これの場合は除外にする等をしておかれた方が、今後の経営上、よいといえます。
また、上記条項例で定めはありませんが、複数の投資者が先買権を行使した場合には、経営株主が譲渡希望する株式数に不足することがあり得るため、その場合の取り扱いも定めるべきです。
なお、譲渡制限で触れませんでしたが、投資者が譲渡する場合にも、この先買権の対象とするものもあり得ます。この場合、既存株主との調整も必要となりますので注意が必要です。

(9)共同売却権(売却参加権・タグアロング):その株式譲渡でおれのも売ってくれ

1.前条(※筆者注:(8)先買権のことです)に従った手続が行われた後に譲渡が行われなかった譲渡予定通知記載の譲渡対象株式(以下「残存譲渡対象株式」という)が存在する場合、前条第2項の請求をしなかった投資者は、前条第2項に定める期間終了後●日以内に書面により経営株主に通知することにより、経営株主に対し、譲渡予定通知の記載と同一の価格及び条件で、経営株主と共同して、株式譲受予定者に売り渡すことを請求することができる。なお、経営株主と投資者が売り渡しを予定する株式数が、譲渡予定株式数を超過する場合、下記の算定式に基づき各自の売渡可能株式数を算定するものとする。
売渡可能株式数=譲渡予定株式数×{各株主が保有する発行会社の株式の数÷(経営株主が保有する発行会社の株式の数+投資者が保有する発行会社の株式の数)}
2.残存譲渡対象株式が存在する場合、経営株主は、前項に定める期間の経過後30日以内に限り、譲渡予定通知記載の譲渡相手方に対し、かかる譲渡対象株式を譲渡予定通知の記載と同等の条件で譲渡することができる。
(※上記条項例は説明の便宜上、簡潔にしています)

前記(8)先買権における手続を経て、投資者が経営株主の譲渡しようとする株式の買取をしませんでした。これで、無事、経営株主は自らの希望する株式数を、譲受先に売却できそうです。しかし、このタイミングで最後のハードルとして出てくるのが、上記条項例の共同売却権です。売却参加権、タグアロングともいいます。表題のとおり、経営株主の予定していた株式数の売却に、投資者の株式の売却も参加できるようになります。 前記の様に、投資者としては、経営株主を見込んで投資している部分もあるわけですし、また、経営株主だけが発行会社からの脱出する自体は容認できません。そのため、経営株主が売り抜けようとする場合に、参加できるよう権利を確保しておくため、この条項を設けることになります。 この条項についても、前記(8)先買権同様に、投資者による譲渡にも適用されるとするものもあります。この場合、既存投資者からの反発もありますので、調整が必要となってきます。

(10)同時売却請求権(強制売却請求権・ドラッグアロング):M&Aの時は一斉に売ろうね

1.多数投資者は、経営株主が同意した場合、経営株主、他の投資者及び発行会社に対し、買収に応じるべき旨を請求する権利を有する。
2.(略)
(※上記条項例は説明の便宜上、かなり簡潔にしています。ここまで簡略化されたものは見かけません)

M&A(合併及び買収)と呼ばれるものは、株式譲渡、事業譲渡、合併等、様々なものがあります。その中で、ベンチャー企業のM&Aで多く用いられるのが株式譲渡ですが、買主企業からすると、株式譲渡をするのであれば、発行会社の株式が100%欲しいわけです。そうはいっても、投資者たちの思惑は様々(IPOして欲しい、むしろ自分が買いたい等)なので、全ての投資者がM&Aに同意してくれるとも限りません。その結果、M&Aはブレイク、といったことも生じてしまいます。多くの投資者、というか主にVCにとっては、投資するからには回収したいわけで困ります。
そこで、上記条項例のように、M&Aの話が発行会社にあったときは、株主間契約に参加している投資者や経営株主は、足並みを揃えてM&Aのために株式を売却しなければならないという義務にするわけです。M&Aを円滑に進める、という方向性に関しては、IPOしか頭にないという経営株主でない限り、経営株主・発行会社側にとってもメリットのある規定といえます(ちなみに、株式譲渡以外のM&Aによる場合でも、M&Aに賛同しない株主が残っていることは支障になるため、そのような局面においても効果を発揮する規定といえます)。

とはいえ、手放しに受け入れてよいわけでもありません。上記条項例は、かなり簡略化していますが、そもそも誰が同時売却を請求できるのか、請求の際の条件は何かといった点はしっかり検討すべきです。上記では、多数投資者(各契約の定義次第ですが、過半数や3分の2以上の投資者)が請求権をもつとしたうえで、経営株主の同意も条件としていますが、経営株主も請求権をもつという形も考えられますし、VCの雛形では経営株主の同意が入っていないものが多くあります(可能な限り、上記条項例のように経営株主や発行会社の取締役会の同意等は入れるべきです)。
また、一口に買収といっても、買収金額の下限を設けるものや契約締結後の特定の期間以降に限定するものもありますし、事業会社が投資者にいる場合は買収先に限定をかけるもの等もあります。

権利の内容としても重いものなので、経営株主・発行会社自身においては慎重に検討すべきですし、(途中で株主間契約を締結する場合や新たに巻き直す場合等)既存株主との調整も必要となる箇所なので、注意が必要です。

なお、次のみなし清算同様、同時売却請求を有効に機能させるにはすべての株主を対象とする必要がありますが、株主間契約に規定する場合、エンジェル等の持株比率が僅かな者まで株主間契約に参加させる必要があります。しかし、株主間契約には、前記の(2)取締役指名権・オブザーバー指名権(3)事前承認(拒否権)・事前通知等といった条項等がありますが、これら持株比率が低い者も自らを対象にするよう要求してきたりする等、調整が進みません(また、対象にした場合は、例えば事前承認・通知先が増える等、発行会社の事務手間が増えます)。そのため、この同時売却請求と次の(11)みなし清算を切り出した、買収分配合意等といった契約を、全株主と締結し、株主間契約は一定の持株比率のある株主に限定するといった対応を行うことが多いです。

(11)みなし清算:M&Aの時は、会社の清算時みたいに分配しようね

1.投資者及び経営株主は、買収(※筆者注:別途定義している前提とします)が行われた場合、当該取引における対価を取得することとなる投資者及び経営株主の間で、当該取引における対価の合計額(対価が金銭以外の場合、多数投資者が当該対価の評価額を算定する)を残余財産の額とみなし、また、買収に応じた投資者のみが発行会社の株主とみなして、発行会社の定款の残余財産の分配に関する規定に基づきそれぞれの投資者が支払いを受けるべき残余財産分配額に従って、当該取引における対価を分配する。
2.発行会社について会社分割の方法による事業移転買収(※筆者注:別途定義している前提とします)が行われる場合、会社法第758条第8号ロ若しくは同法第760条第7号ロに規定する剰余金の配当をするとき、又は同法第763条第1項第12号ロ若しくは同法第765条第1項第8号ロに規定する剰余金の配当をするときには、当該配当される承継会社又は新設会社の株式について、多数投資者が合理的に評価額を算定し、配当される株式の価額の合計額を残余財産として発行会社を清算したと仮定した場合に、発行会社の定款の残余財産の分配に関する規定により算定される各投資者及び経営株主がそれぞれ分配を受けられる金額に基づいて、各投資者及び経営株主が分配を受けられる金額を算出し、その金額と同額の株式を各本株主に配当する。
(略)
(※上記条項例は説明の便宜上、簡潔かつ省略しています)

実際の条項が複雑であるため、簡略化して説明しますが、例えば、1株100円9,900株で経営株主が発行会社を設立した場合に、その後、投資者が1株1万円100株で発行会社に出資したとしましょう。株式譲渡によるM&Aの話が、企業全体の買収価格5,000万円、1株当たり5,000円で生じたとします。この場合、経営株主は1株当たり4,900円もプラスが生じますが、投資者は1株当たり5000円も損することになります。
上記のままですと、投資者としては、自らが損をするM&Aに当然反対することになりますし、そもそも投資に対するインセンティブが低くなります。また、上記例では、経営株主と投資者という構図ですが、先行する投資者と後行する投資者(後行する投資者の方が1株当たりの出資金額が大きい場合)でも同様の構図といえます。

そこで、別途解説する記事のように、発行会社の定款において、別途、投資者の取得する株式を優先株式とし、優先分配規定(大雑把にいえば、出資時の一株あたりの金額の多寡に応じて優先的に分配を受けられるような規定)を設定し、当該規定に準じて、M&A時に発行会社や株主に入ってくる対価を分配する定めを設けることとなります。上記例でいえば、5,000万円を全体額として、投資者が全体額から経営株主に先んじて、100万円(1万円×100株)を回収し、残額4900万円を経営株主と投資者で分配する等の様な帰結となります。

この条項は、株主間契約では必ずといっていいほど定められる規定であり、また、前記の強制売却権同様に、発行会社の全ての株主がこの条項の対象となっていないと有効に機能しないものではありますが、前記(10)同時売却請求権(強制売却請求権・ドラッグアロング)同様、株主間契約に盛り込んだときの弊害もありますので、買収分配合意として切り出して合意することが一般的です。

(12)株式買取請求(プットオプション):落とし前として投資者の株式を買い取ってくれ

1.投資者は、以下の各号に掲げる事由のいずれかが発生した場合、投資者が保有する本株式の全部又は一部を、発行会社及び経営株主が連帯して買取ることを請求できるものとし、発行会社及び経営株主は、かかる請求を受けた日より●日以内に本株式を投資者の指定する方法で全て買取らなければならない。
(1)本契約における発行会社又は経営株主の表明及び保証が重要な点において真実又は正確でなかった場合
(2)発行会社又は経営株主のいずれかが本契約のいずれかの規定に違反をした場合
(略)
投資契約の記事でも触れましたが、株主間契約でも定められることがあり、こちらでも懸念となる規定です。
この規定は、一定の条件に該当した場合、投資者が保有することになった株式を買い取らなければならないとするもので、「株式買取請求」「プットオプション」と呼ばれたりします。

この買取義務を負う当事者ですが、ベンチャーファイナンス実務解説本においては、(それがスタンダードとして流通すること等を懸念して)発行会社のみが負う条項例が記載されることもありますが、実務では、上記の様に、発行会社と経営株主両方が連帯して買取義務を負うとするものが提示されることが多くあります。
これは、発行会社による発行会社株式の取得が、会社法上の自己株式取得として、財源規制が適用されること等が理由です。
発行会社と経営株主の義務とした場合であっても、株式買取請求がなされるときは、発行会社の財政状況が芳しくないことも多いでしょうから、経営株主としては、自分一人が投資者の株式の買取義務を負うかもしれないという認識をもつべきです。
実際に、(私が関与せずに行われた出資案件について)数億円規模の買取請求がなされた段階になって相談が持ち込まれたケースもありましたので、買取義務者に経営株主が含まれるかどうかは要注意事項となります。
そのため、経営株主の立場としては、可能な限り、買取義務者を発行会社に限定する修正交渉を行うべきといえます。

買取義務者以外の事項として、そもそもどのような条件であると買取義務が発生するのかという点や株式買取時の買取価格をどう定めるのかも、重要な問題になってきます。

買取義務の発生条件について、上記の条項例では「本契約のいずれかの規定に違反をした場合」としていますが、これでは前記の事前通知義務等の軽微な違反一つでも買取義務が発生してしまうことになりますので、「本契約のいずれかの規定に重大な違反をし、当該違反の治癒が不可能な場合又は違反当事者が当該違反の治癒を求める投資者からの通知を受領後●日以内にかかる違反を治癒しない場合」等と限定をかける必要があります。

また、実際に買取請求が発動した場合の株式の買取価格について、
2.前項に基づく買取における1株当たりの譲渡金額は、次の価格のうち最も高い金額とする。
(1)投資者が本株式を取得した際の1株当たりの払込金額
(2)発行会社の直近の貸借対照表上の簿価純資産に基づく発行会社の1株当たり純資産価額
(3)投資者、発行会社及び経営株主が協議の上選任した第三者の鑑定による発行会社株式の1株当たりの公正な時価
(4)本条に定める買取請求以前において、発行会社の新株発行又は発行会社の株式譲渡の取引事例が存在する場合には、その直近の1株当たりの新株払込金額又はかかる取引事例における1株当たりの譲渡価額
(5)財産評価基本通達に定められた類似業種比準価額方式に従い計算された金額
といった定めがよくみられます。
しかし、例えば、(4)は直近の取引事例をベースにするものですが、発行会社のバリエーションが上がるにつれて、どんどん買取価格はあがっていくので、ざっくりと「出資時のお金を返せばいいんでしょ」と思っていると、予想外の事態となります。

上記の様に、細かい文言の定め方次第で、意味内容が大きく異なることもありますので、安易に自己判断をせずに、弁護士に確認を求めるべきです。

3.まとめ

投資契約同様、条項一つをとっても、留意すべき点は細かいです。また、株主間契約の場合には、誰を当事者にすべきなのか、誰にどの権利を与えるべきなのか等、通常の契約と異なる検討事項や既存株主と新規株主との調整事項等、通常の契約書レビューとは異なる視点での検討も求められます。

さらに、上記で触れた条項は、あくまで一部の抜粋であって、上記以外にも懸念となる条項は多くあります(たまに、部分的に契約書を確認してほしいという方がいますが、全体を見てみないことには、どこに地雷となる条項があるのかはわかりません)。

実際に事前承認等で日々の会社運営に差支えが生じてしまっている事例や、株主間の調整がうまくいかずに出資まで足踏みをする羽目になった事例等も多く見かけますので、出資金額にかかわらず、ファイナンスのお話があった場合には、是非下記の相談フォームよりお問い合わせください(ファイナンス案件のご相談であれば、まずは30分無料でお話を伺います)

なお、私は、商業登記の対応も普段から行っていますので、私に依頼される場合は、契約書等のレビュー対応に限らず、会社法上の必要書類作成、登記申請まで、丸ごと対応可能です(私と顧問契約を締結される場合、別途、司法書士と契約する必要がなくなりますし、ファイナンスについては、顧問契約を別の法律事務所様と締結されている場合であっても、スポット的にご依頼いただくことが可能です)。

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